【社会】くらしナビ・ライフスタイル　エンゲル係数、なぜ上昇？積極的にお金を使いたい費目「食料品」がトップ

http://mainichi.jp/articles/20160805/ddm/013/100/022000c
毎日新聞2016年8月5日　東京朝刊　

　家計の消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数が上昇している。特に消費増税後の消費低迷を反映したかたちだが、必ずしも生活水準が下がったとは言いにくい。
背景には、世帯構造や食の位置づけなど、さまざまな変化がある。要因を探った。

●消費増税後に顕著
総務省「家計調査」によると６月の２人以上世帯のエンゲル係数は２６・８％。バブル崩壊後２５年ぶりの高水準にある。エンゲル係数は高いほど生活水準が低いとされ一般にもなじみのある指標だ。
日本では戦後混乱期に６０％程度に上昇したが、その後一貫して下がり続けてきた。だが、２００５年の２２・９％を底に横ばいが続き、ここ数年は再上昇している。
なぜか。家計に逆風が吹いているのは間違いない。

　まず所得の減少。家計調査で２人以上勤労者世帯（農林漁家除く）の月平均実収入は１９９７年の５９・５万円をピークに減少している。
ここ１０年は税・社会保険料負担が増し、収入の約２割を占める。これらを差し引いた月平均可処分所得は９７年の４９・７万円から１５年には４２・７万円に減った。

　そこに食品価格の上昇だ。「生鮮食品を除く食品」の消費者物価指数（全国）はほぼ横ばいで推移してきたが、消費税率が引き上げられた１４年４月から急伸し、直近は１０年比で６・５％増。
増税に加え、新興国需要で穀物価格が上昇したことや、円安で原材料を輸入に頼る加工食品の価格が上昇した。
所得が減れば、家計はおのずと消費を控えるが、もともと節約しにくい食品が値上がりし、支出割合が増えている構図だ。

●共働きで中食依存
一方、中長期でみれば、世帯や家計の構造変化という要因も見逃せない。生協総合研究所研究員の宮崎達郎さんは「エンゲル係数の意味合いは変わってきた」とみる。

　まず、高齢化が進み、共働き世帯も増えたことがある。シニア世帯は現役時代より収入が大きく減るが、食の質を落とすことには抵抗感が強く食費は下がりにくい。
世帯主が７０歳以上世帯のエンゲル係数は２７・５％、教育費負担の多い５０代世帯は２３・１％と差がある。共働き世帯は時間節約から外食や総菜や弁当などの中食に頼る傾向がある。
食費に占める外食と調理食品の割合は３割近いが、調理コストやサービスを上乗せしているぶん割高になりがちだ。

　食費の位置づけも変わってきた。外食は「生きるための食事」というより友人や家族とのコミュニケーションやレジャーの場という意味合いが強い。
また、家計調査の食費には一般の外食を含み、交際費として支出した飲食代は含まないが、両者の区別は難しい。
宮崎さんは「バラエティー番組ではグルメが定番。食の安心・安全志向も根強い。日本人は食へのこだわりが強い。単に食費という視点では生活の豊かさは測りにくくなっている」という。

●目立つ食への偏重
「日本は食べることしか楽しみがない社会になった」。流通大手イオンの岡田元也社長は４月の決算発表でこう嘆き話題になった。食品スーパー事業は伸びたが、中核の総合スーパー事業は大幅減益と苦戦する。
小売業界では「食への偏重」が顕著だ。日本チェーンストア協会によると１～６月の全国スーパー売上高（既存店ベース）は、食料品は前年同期比２・０％増と堅調だが、衣料品や住宅関連用品は前年を割り込む。

　野村総合研究所が３年に１度行う「生活者１万人調査」では、積極的にお金を使いたい費目（複数回答）は「食料品」が伸び続け、１５年は３９％とトップになった。０３年と比べ「食料品・外食・交際費」の伸びが目立つ。

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